ショートショートの林
事のおこりは数週間前、僕が「世界一決定戦」に応募したことからはじまる。

いや、正確には応募されていただけだ。

家に帰ってくるなり姉から「書類審査通過だってさ!」とまくし立てられた時はなにがなんだか分からなかった。

そして、なにがなんだか分からないのはそこから今日、今の今に至るまでずっとだ。

突然面接に呼ばれて学校を休んだり、街中で出来もしないサインを求められたり。

そういえば外食したときに注文と違うメニューが出てきたり、お釣りを間違えられたりもした。

いや、後の方は多分関係ないけれど、なにを送ったのかも知らない「書類審査」以来、変なことしかなかった。

生来気の弱い僕は、その変な日々に文句も言えず、とりあえず面接で愛想笑いをしたり、

適当に崩した字で名前を書いたり、メニューやお釣りを指摘せずに店を出たりしてしまっていた。

そして、一昨日突然自宅にかかってきた電話

「決勝進出が決まりましたが、来れればで結構です」

との言葉に仕方なくしたがって訪れたこの場所で、僕は総勢5万の観衆と数十台のカメラに囲まれている。

この状況になって、初めて僕は強烈な疑問を抱いた。

なんの「世界一決定戦」なんだろう。僕が出られる「世界一決定戦」なんてこの世の中にあるんだろうか。

なんで家族がみんな先にここにいたんだろう、ひょっとしてこれはドッキリなんだろうか?

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