ショートショートの林
「左に回ってパンチ!」「左から来るぞ!」

姉と鈴木さんのお父さんの声はそれからも毎回毎回かぶるように響いていた。

僕は姉の指示が遅いときは攻撃をくらい、指示が早いときはくらわなかった。

それは鈴木さんも同様で、お父さんの指示の速度が全てだった。

しかし、2ラウンド目に入ったところで僕は気づいていた。

相手の攻撃は、必ず相手のセコンドが指示を出してからくる。

そしてその指示は僕にも聞こえている。

つまり、聞こえた指示の攻撃に備えれば、姉の指示を待たなくても殴られることはない。

ただ、もしそうやってガードした時に姉の指示が「避ける」だったら、僕はポイントを失う。

だから、僕は姉の指示に従い続けた。

姉が相手のセコンドより早く指示を出せれば負けないのだ。

なんの試合か、いまだにわからないけど、せっかくだから勝ってやろう。

そう思った矢先、僕は信じられないものを見た。

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