身代わり姫
「衛兵っ! 娘が逃げるぞ。逃がすなっ!」


王子の声がして、煙の中からその顔がちらりと現れました。
レオノーラと目が合うと、ばっと胸元からナイフを取り出しました。


「ええい、手ずから殺してやるわ。死ねっ」


ナイフがひゅ、という音と共にレオノーラの胸目掛けて飛んできました。


「危ない! レオノーラ!」


黒いものが、レオノーラの前に立ちふさがりました。

ぎゅっと目を閉じたレオノーラの耳に、とす、という音がしました。


小さな呻き声がし、目をあけると、


「リュイ!」


王子の放ったナイフは、深々とリュイの胸に刺さっていました。

妖精たちが口々に悲鳴を上げます。


「……レオノーラ、逃げて」


リュイは振り返りながら言い、そのままふっと紫色の炎の中に飲み込まれていきました。


「リュイ! リュイ!」


炎はめらめらと音をたてながら揺らめいています。


「お願い! リュイを助けて!」


レオノーラは腕をつかんでいる妖精に叫びました。


「レオノーラ、ダメ。もうすぐ煙玉の効き目が切れちゃうわ。ほら、炎が……」


紫色が、ゆっくりと赤い炎に変わっていきました。
溢れる煙も、少しずつ消えていきます。


「逃げなくちゃ。私たちだって、捕まってしまう」

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