超短編集
一人の老人が桜並木の道を浮かない表情で歩いていた。

老人はある会社の社長なのだが、最近は会社の経営が振るわず思うように稼げないでいた。

昔は良かった。羽振りの良い頃はこの桜並木に何本もの桜を植樹し、市民に大変喜ばれた。

しかしそれも今は昔。老人が植樹した事など誰も覚えてないだろう。

ふと一本の桜が目に付いた。

その瞬間、老人の体は稲妻が走るような感覚が襲った。

これだ。

老人はすぐに考えを実行に移した。



「やぁ、久しぶりだね」

老人の前には一人の威厳を携えた男が座っていた。

しかし男にはこの老人が誰だかわからずにいた。

はて、社交界で出会った貴族か?それとも欧州の判事か官僚か?

疑問符を掲げる男ではあったが老人は気にせず続けた。

「数十年振りだな。賠償金を払ってもらいに来たよ」

「賠償金?一体何の事だ?」

老人はニヤリと笑った。






「数十年前、君が折った桜の木の枝の賠償金さ。

お金持ちになった今なら払えるだろう?

ワシントン大統領?」



ー了ー
< 1 / 4 >

この作品をシェア

pagetop