超短編集
婚約指輪
ある日、妻はふとした疑問を夫にぶつけてみた。

「私がもし死んだらあなたは再婚する?」

夫は手に持った新聞を折りたたみ、笑いながら妻に言った。

「面白い冗談だね。そうさな、多分再婚はするだろうなぁ」

「そうすると私の家財は再婚相手に?」

「やるだろうなぁ。君の物を売るや捨てるだなんて考えられない。再婚相手と君には悪いが使ってもらうよ。思い出を携えてね」

「婚約指輪も?」

「あぁ。何物にも変えられない素敵な思い出だもの」

「……あなた」

妻は愛おしげに夫を見つめた。夫も妻を優しい眼差しで見つめる。

それから妻は小さく呟いた。











「その言葉、私で何人目なのかしら。

通りであなたのくれた指輪のサイズが合わなかったのね」


妻はすっとテーブルの上に一枚の紙を差し出した。


紙には『離婚届け』と書かれていた。




ー了ー
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