緋色の奇跡
ふと顔をあげると、目の前の男性が腰からペットボトルを下げていた

そのミネラルウォーターに私はすぐに食いついた


「オジサン、そのペットボトルの水下さい!」


その水を受け取って患部を洗うと、私は先ほどの方法で止血をしていく

出血箇所は右腕

止血した後ゆっくりと触れていくと、彼は「うっ……」と呻き声を上げた


「骨折してるかも。何か棒状のもの、なければ新聞紙や厚めの紙でも良いのですが、ありませんか?」


辺りにいる人に尋ねると、すぐさま彼らは私の要求に沿うものを探そうとしてくれる

全く見知らぬ人たち

いつもならきっと、すれ違って終わる

そんな関係の私たちが今はこんなにも近くにいる

こんな世の中

人々が協力する理由がこれだけなんて皮肉だ


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