妄想バレンタイン《短編》
ダイニングテーブルに着くと、母親が朝食を俺の前に並べた。


父親は先に食事を始めていたが新聞を見たままだし、母親も忙しそうに動き回って、誰も今日の日について話題に出さない。


俺にプレッシャーを与えないように気を配っているのかな?


そのぎこちなさが、余計にプレッシャーになるのに。


俺は半熟の目玉焼きの黄身の真ん中にプスッと箸で穴を開けた。


そこに醤油をちょっと垂らすと、ご飯と一緒に一気に平らげる。


妙に俺の鼻の穴が広がっていることに、気付いた人間は誰もいないようだった。
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