妄想バレンタイン《短編》
そして、俺はいつもと同じ遅刻ギリギリの時刻に家を出て、自転車でいつもと同じ道を走った。


校門の手前で毎朝見る後姿を見つけ、通りすがりに背中に一発入れると自転車を降りた。


「おはよう、菊地」


「おぅ」


菊地は一言声を発しただけで黙ってしまった。


怒ってるわけじゃないけど、ボーッとしてて、もともと無口な奴なんだ。


だけど顔はいいし、サッカー部のレギュラーだから当然もてる。


菊地だったら、今日という日にプレッシャーなんて全く感じないだろう。


何考えてるんだかわからない菊地をちらりと見ながら、俺は下駄箱の扉に手をかけた。

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