精神安定剤
前から歩いてくるのは、コンビニに行く途中の阿部だった。



明海は、阿部と確認すると、止めていた足を進め、歩き始めた。



そして、阿部は明海に気が付いた。
 


「これは、珍しいところで、お会いしますね、女刑事さん。」
 


「本当ですね、阿部さん。」
 


「相変わらず、ご活躍のようで、これからも期待していますよ、では・・・」


と阿部が、最後の言葉を言い終わるか終わらないかのところで、明海は、
 

「あんたが、今までの私の努力を全て台無しにした。


全てを私から奪った。


許さない。」


と吐き捨てるように言い、阿部に襲い掛かった。
 


その場所は、歩道が、車道よりも高いところにあり、車からは、歩道にいる人が見えない。



車道では、ひっきりなしに車は通り、スピードも出ている。



阿部を車道に突き落とせば、即死だろうと明海は考えていた。



また、人通りもほとんどないし、民家もなく、目撃されることは、ほとんどないし、脇道がすぐ近くにあるので、阿部を突き落とした後、すぐにそこから逃げれば、見つかることもないと計画していた。



明海の計画は、加賀屋が感づくことがなければ、完璧なものだった。
 


明海の前から歩いてくる人が、阿部と気が付いた加賀屋は、


「あっ!」


と声を出しそうになるのを必死でこらえた。



阿部との出来事は、加賀屋が異動してくる前の出来事だったが、雑誌や新聞、テレビなどで大きく報道されていたので、阿部と明海の関係は、加賀屋にもすぐにわかった。



そして、まさしく今回の被害者となるのが、阿部ということもわかった。



とりあえず、加賀屋と佐野は、明海と阿部の様子を少し離れた場所で、監視していた。
 
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