精神安定剤
明海が、阿部に襲い掛かったとき、加賀屋と佐野は一斉に飛び出し、加賀屋は明海を押さえつけ、佐野は阿部を救出した。



あと少し遅かったら、阿部は、歩道の下の車道に、落とされていた。
 


「何するんだ、このアマ!!」


と興奮している阿部は、明海に向かって叫んだ。
 


「お前だけは、許さない。」


と明海は、独り言のように小さく言った。



その言葉を加賀屋は聞き逃すことができず、これから何か事件が起きるたびに思い出すのだ。



安部の興奮が収まらず、このまま阿部と明海が近くで、応援を待つのは危険と判断した佐野は、阿部を明海の姿が見えない場所まで連れて行った。
 


阿部の姿が見えなくなると、加賀屋は、手錠をポケットから取り出し、
 

「午後十時十八分、本間明海、殺人未遂容疑で現行犯逮捕します。」


と、明海の目を真っ直ぐに見て、手錠を明海の手にかけた。



そのとき、加賀屋の目には、涙でいっぱいだった。



最後まで、明海は事件に関係ないと信じたかったのだ。



しかし、自分の目の前で、事件を起こした明海の姿が、悲しくてたまらなかった。



それから、5分後応援が来て、明海は、車で、八王子警察に連行された。



そのときも、加賀屋は、明海の横にいた。



そんな、暖かい心の持ち主の加賀屋に対し、明海は、ずっと一緒にいたかったと思った。



加賀屋のことを思えば、涙が出そうだったが、阿部がまだ生きていること、そして今回の出来事をまた、記事にするだろうということを思えば、怒りを覚えた。
 


やはり、事情聴取を終えた、阿部は、今回の自分に襲い掛かった出来事を、《自分のミスを、人に責任転嫁して、連続犯罪を起こした、女警官》と大きく見出しをつけ増刊号として記事にした。



当たり前のように、その雑誌の売れ行きはよかった。
< 26 / 28 >

この作品をシェア

pagetop