精神安定剤
明海が逮捕され、すぐに明海の家が、家宅捜索されたが、阿部以外の犯罪の手掛かりとなるものは何も出てこなかった。



ボタンが取れたシャツも片方が破けているはずの靴下も、家からも署の明海のロッカーからも出てこなかった。



明海は、事件を起こした次の日には、その日に着ていた、洋服全てを処分していたのだ。



最後に、キーホルダーから出た、指紋もハッキリと明海のものとは判断できなかった。



結局、物的証拠は、どの事件もなく、明海が犯人と、立証できることは難しく、毎日同じことの繰り返しで、取調べが続いた。
 


何度、三つの事件のことを聞いても、明海は何も言わなかった。



そんな様子を、調書を書きながら見ていた加賀屋は、取調べ五日目に始めて、口を開いた。
 


「みんな本間さんを信じてる。


僕も、必ず本間さんが立ち直ってくれるって信じてる、明海を愛しているから。


僕が、好きになった人だから・・・」
 



加賀屋は、佐野が同じ部屋にいることなど、無視して自分の今の素直な気持ちを、明海にぶつけた。



そんな加賀屋の言葉が、明海の心に突き刺さった。
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