精神安定剤
部屋に1人取り残された明海は、心のよりどころを失ったショックで、泣き崩れた。



ただただ、泣いていた。



一人になって、一時間、涙は止まらないが、ここにいても、木村を思い出すだけだと思い、明海は、部屋をでた。



泣いている明海をすれ違う人は振り返り見るけれど、そんなことなど明海は気にもならなかった。



木村を思い出すものを、全て記憶から抹消したかった。



そして、早く家に帰り、思い出の品全てを、捨てたかった。



家までの間、少し冷静さを取り戻しつつあった明海だったが、家に着いたとたん、安心したせいか、再び涙が溢れ出し、玄関で泣き崩れた。



そして、どのくらいの時間が過ぎたかわからないがが、突然立ち上がり、木村を思い出すものを、ゴミ袋に捨てていった。



 明海がふと気が付くと、朝になっていた。



 その頃には、明海の涙は止まり、


   『もう自分しか頼るものはないんだ。


    私がしっかりしなくてはいけない。』


 と冷静さを取り戻しつつあった。



 木村に会うのが辛かったので、仕事を休もうかと思ったが、ここで仕事を休んでしまったら、ずっと行けなくなりそうだったし、そのまま辞めてしまえば、上司の思う壺になってしまうのは悔しかったので、涙で腫れた目を氷で少し冷やし、仕事に行った。



 氷で目を冷やしても、目の腫れはよくならなかった。
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