初恋
 山田くんがホッした様子で言った。電話口から「お兄ちゃん、どう?」という声が聞こえる。「うるさいな、静かにしろよ」と山田くんが少し強めに言った。


「ごめん、妹がうるさくてさ、気にしないで」


「ううん、大丈夫だよ」


「本当言うとさ、告白した時、ちょっと考えてたじゃん。だから、付き合うの無理なのかなって思ってたんだ」


「私、そんな顔してた?」


「うん、してた。てっきり他に好きな人がいるんだと思って、がっかりしてたんだよ。そういえばボクと付き合おうって思った理由はなんだったの?」


「お父さんに……似てなかったからかな」


「そっか」


 山田くんはちょっと考えて言った。困った様子だった。


「あともう一つ、山田くんが格好よかったから」


「ホント?」


 山田くんの嬉しそうな声が聞こえる。


「ねぇ、明日一緒に登校できる?」


「え、いいよ。大丈夫だよ」


 山田くんは慌ててるみたい。


「明日、桜山神社でどう?」


「いいよ。何時にする?」


「六時は?」


「早くないかな?」


「私たち、まだ互いをよくわからないし、お話もしたいし」


「そうだね、わかったよ。じゃあ明日」


「あと、一つ聞いていい?」


「なに?」


「山田くん、お母さんの事どう思ってる?」


「オレのおふくろかい? どう思ってるって具体的にどういう意味?」


「好きかって事よ」


「いやぁ、うちのおふくろはブクブクに太ってるしさ、好きって思った事はないな。でも、嫌いじゃないよ。なんていうかな、好きとか嫌いとか関係なく必要な人って感じかな。まぁ、面と向かっては言わないけどさ」


「そっか……そうだよね」


 私はまた泣き出した。山田くんに気付かれないように手で口を塞いだけど、ダメだった。


「泣いてるの?」


 山田くんが心配そうに聞いてくる。


「ううん」


「泣いてるよ、絶対」


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