初恋
 私は平皿にキャベツを盛り付けながら「はいはい」と軽くあしらうと、フライパンに被せた鍋の蓋を取る。もぁって蒸気があがっていい匂いがした。


 お父さんが「旨そうだな」と言った。


 私は平皿にハンバーグを盛ると「ジャジャーン」と自慢気に言って、テーブルに平皿を置いた。


「いい匂いだ」


 お父さんが笑う。私はすごく嬉しかった。


「私が作ったんだよ。あったり前じゃん」


「そうだったな」


 お父さんはハンバーグに箸を入れた。お父さんはナイフとフォークを使わない。ナイフで切ったあと、左手に握ったフォークで刺して口に運ぶのが苦手らしい。少しぶきっちょな所が愛くるしかったりするんだよね。


 お父さんはハンバーグの塊を口に運ぶ。「旨いな」と感激した。


「へへ」


 私はちょっと照れた。頭を少し掻いてお父さんを見た。ハンバーグをどんどん口に運んでる。私はお父さんを見ていたらお腹が空いてきて、自分の分を焼き始めた。


 私は自分の分を焼き上げて椅子に座る。お父さんはもうハンバーグを食べ終わっててキャベツをむしゃむしゃ食べてた。


「ご馳走様」


 お父さんが立ち上がった。お風呂にでも入るつもりみたい。私はハンバーグを口に運びながら「私、一人で食べるの?」と呟く。


「そうだな。悪い、悪い」


「その前に私の話、聞いてくれる?」


「なんだ、もしかして恋人でも出来たのか? お父さん、心の準備しなくちゃな」


 お父さんは座り直しながら冗談半分で言った。ワイシャツの襟を正してわざとらしく肩を窄めた。緊張したふりをして、おまえの恋人はどいつだ、といった感じで顔を強ばらせてみせた。私が俯いて何も言わないのを見て「何だ、本当に恋人が出来たのか?」と驚いた様子で言った。


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