初恋
「ううん、告白されたの」


「どんな奴だ?」


 どんな奴だ? なんて口調で聞かれたら、何だか言いにくい。まるで事情聴取みたいじゃない。


「隣のクラスの山田優斗くんって言うの。サッカー部のエースなんだよ」


「私が聞きたいのは、そいつの中身だよ」


「悪くないと思うよ。友達から変な噂は聞かないし雰囲気は爽やかだったよ。見た目もよかったし」


「そうか……」


「もしかして嫉妬……した?」


「少しな」


 お父さんは苦笑いをして、頭を掻いた。


「お父さんが、ダメって言うなら断ろうかな」


「何を言ってるんだ。確かに少しは悲しかったが、お前の前に魅力な男性が現われて、恋に落ち、私のもとを離れると覚悟はしていたよ。お前がその人でいいなら付き合いなさい」


 お父さんは少し嬉しそうに微笑んでいた。私は何故か胸が苦しくなった。テレビでやってる恋愛ドラマの女主人公が、何でよ、あなたは私が好きじゃないの、って泣きながら喋ってる。


「お父さんは私が他の男性と付き合うの我慢できるの?」


 嫌な私が現われた。心の奥底に蓋をしていたのに、理性の制止を振り切って口先を勝手に動かす。心の中で意地悪な私が喋った。どんどん意地悪な私が広がっていって、私は自分が怖くなった。私の体じゃあなくなる。恐ろしい。私は、私の仮面を被ってるかしら。他人の仮面じゃないよね。


「何を言っているんだ?」


 お父さんの顔色が変わる。


「私が知らない男性とキスして、エッチするのが我慢できるのかって聞いてるの」


 私は大声で怒鳴ってた。目の周りがじんわり熱くなって、涙が浮かんでくる。これも私の涙なのかな。誰か違う人の涙じゃあないのかな。針千本を飲み込んだように体の中がチクチク痛む。


「何を言ってるんだ。それが当たり前だろ。お前は誰かを好きになり、子供を作るんだ」


 お父さんは慌てて立ち上がった。動揺した様子で私に言った。


「私はお父さんが好きなんだよ。お父さんは私の事が好きじゃないの? 好きならそんな事言えないはずよ」


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