ネットワークライダー『ザイン』
「なんです?
今何と言ったんですか?」
ブワァァッ! ヒュゥゥゥウ
マルケの顔が赤黒く変色したかと思うと、窓やドアが開いている訳でも無いのに教会内を激しい突風が吹き抜ける。イゾルデは風に煽られよろけそうになるのを必死で堪えた。
彼女は風がやむのを待って片膝を床に付け、こうべを垂れる。
「も、申し訳ありません。開発を任せていた科学者が雲隠れ致しまして、行方知れずになってしまったのです」
イゾルデは畏まって更に深く頭を下げる。その露になったすべらかな太股と生白い胸の谷間が、薄暗い室内を淫靡な空気で満たしていた。
「イゾルデ。
お前は。
お飾りで僕らの副総帥をやっているのですか?
僕の機嫌が悪くなったらお前も困るでしょう」
マルケの声は至って落ち着いているように聞こえるが、その表情は鬼神のそれ、その物だった。
「ヤツの脳幹には発信器を埋め込んであったので、こちらも楽観視していたのですが……ここ一両日は反応が検知出来ないのです。
地下に潜入したか、或いは……」
「望み薄なら、
別の、科学者を使いなさい。
そんな重要人物の、
管理にしては、
甘かったと言わざるを得ませんね」
マルケはイゾルデの言葉が終わるのを待たずに、彼女を詰るようなキツイ語調で返した。
「ははっ、申し訳ありません。すぐ最善策を検討致します」
脱いだ兜を抱えてマントを翻すと、イゾルデは早足に教会を辞していた。
───────瀬戸の部屋
「売買契約書だと偽って特許権の譲渡契約書にもサインをさせたし、後はこっちで正式登録すればいずれ巨万の富が手に入るようになる。
鴻上が言っていたように、世界的な富豪になれるかもな」
ガシュッ
瀬戸は瑞々しいリンゴにかぶり付きながら、鴻上に書かせたサインを確認し、ほくそ笑む。
「それにこのシステムが有ればネットの裏の裏まで侵入出来るから、これからは俺のやりたい放題じゃないか!」
鴻上が開発したシステムはネットワークを介した物質転送装置だったのだが、その研究の最中に偶然発見したのが『ネットライド』だ。
ネットワーク内を自由に往来出来るそれを使えば、パスワードも個体認証もただのお飾りでしかないという。
「ネットライドの事を知る者はごく少数だし、その開発者である鴻上はもはやただのソフトだ」