ネットワークライダー『ザイン』
ガシュッ ザクッ
瀬戸は残りの林檎を乱暴にかじると説明書を取り、パソコンの前に腰掛けた。
「ふん。まずは……と。『マテリアル·トランスファー·デバイスのセットアップ』……これだな」
瀬戸はあのプロジェクターのような機械と自分の用意したパソコンとを繋ぐ。
「なに? 付属のCDロムを読み込ますだと? しまった! アロワナと一緒に水槽の中じゃないかっ」
ヤレヤレと言いながら腕を水にジャブジャブと突っ込んではみたが、底にはまるで届かない。
普段から業者に任せきりで水槽の中を弄る事も無かった彼は、家中のあらゆる物を動員し、四苦八苦しながらようやくノートパソコンのサルベージに成功した。
「畜生、身体中びしょ濡れになった。しかしこれがメモリーだったら完全にアウトだったな」
操作アプリやさっき見たバイク、ネットワーク内部でソフトウェアとなった自分をウィルスから守る装甲ソフト等の説明が、全てこのCDロムに入っていた。
「ウィルス装甲ソフト。これもまんま特撮ヒーローだな。なになに? ネットワーク内でバックルを腰に巻き、指定のキーワードを言うとウィルス装甲が出現するのか……。さすがヒーローオタクの作ったソフトだ。
キーワード1は『変身』で、キーワード2『起動せよ』で装甲装着? カタいなぁ……そうだ」
何を思い付いたのか、パッと顔を輝かせた瀬戸はキーボードを叩き、2番目のキーワードを英語に変えた。
「これでいい。変身、レッツ ブートアップ(起動)だ……折角だからポーズも決めようかな、フフフ。俺も嫌いじゃないな。
……よし、セットアップ完了。早速俺の読み込み開始だ」
マテリアル·トランスファー·デバイスから光が発せられると、目まぐるしく文字の入れ替わる画面がパソコンのモニター上に現れた。瀬戸の身体も、あの時見た子猫のように僅かだが発光している。
「これが俺の命なのか……。
パッと見猫のと全然変わらないんだけどな」
そして90秒後。
ピィィィィィッ
読み込み終了を電子音が告げて、瀬戸はすぐさまデータを保存する。
「よし、いよいよスタートだ」
アイコンがクリックされると彼が包まれている光が一際輝きを増した。
シュゥィィィン……フッ
机の書類が数枚宙に舞っている。瀬戸の姿は跡形も無くその場所から消え去っていた。