ネットワークライダー『ザイン』
「うわぁぁぁぁあああっ!」
身体の中を隅々までかき混ぜられたような感覚に襲われ、瀬戸は叫んでいた。その衝撃が収まると、まさに彼はソフトウェアとしてネットワークの中に在った。ネット酔いによる具合の悪さより、何もない暗闇に一人きりで居る事に恐怖していた。
「これが……ネットワークの中なのか……」
どこを見回してもそこはただ真っ暗な闇の世界だった。耳を澄ましてみても、物音ひとつ聞こえない。
「おーい!」
声を限りに叫んだが、何の返答も無いばかりか、こだまも返っては来なかった。
「あれっ? なんじゃ、こりゃ。カッコ悪りぃったらありゃしない」
ふと身体を見おろしてみると、全身がぴったりと肌にフィットしたタイツのような物に覆われていて、漆黒の空間を僅かに照らしていた。彼は言いようもない孤独感から逃れる為か、おどけたポーズをしてみせる。
「身体が光ってる、気持ちわりぃ。脱げないのか、コレ。なっ、イテテッ」
タイツ状の服を引っ張ると、それは皮膚と一体化しているようだった。痛みを感じた瀬戸はひとり情けない声を上げている。
ビッ ビビッ ビビッ
すると突然、耳障りな音が微かに聞こえてきた。
「なんだ?」
音の方向に目を凝らすと、空から魚のような物がやはり光を放ちながらゆっくりと降下して来る。
「何なんだ? あれは……」
所々虹色の反射を見せる、基本銀色に輝く魚は、その鋭い歯を隠すことなく剥き出しにして、次々と瀬戸の元に舞い降りた。
ビビッ キシャァァアッ
金属板を切り裂くような声を上げ、魚達は瀬戸に襲い掛かる。真っ赤に光った目を見開き、大きく裂けた口を開け、ギラギラと鋭く光を放つ牙で瀬戸に向かってきた。
「なんだ、敵なのか? 喰われてたまるか! そりゃっ! てやっ!」
腕には少々自信が有った彼は魚を蹴り込んだが、全く歯が立たない。
ビッ ビビッ キシャァァアッ
「まずい、……殺られるっ」
そう思うと同時に瀬戸は対ウィルス装甲の事を思い出した。
「バックルは? バックルはどこだ」
しかし身体の何処にもそれらしき物を収納しておく場所は無い。このタイツ状の服にはポケットさえ無いのだ。
キシャァアッ キシャァァアアッ ビビッ ビビッ!
警告音を発しながら襲い来る魚を躱し、腰の辺りをまさぐった時だった。
バババッ ヒュィィイイイン