ネットワークライダー『ザイン』
「チッ! どこが真面目だって? マッドサイエンティストのレッテルを貼られて学会を追放されたあんたが良く言うぜ。それにな、俺は努力してこの富を得たんだ。苦労もせずに金を稼げる訳が無いだろうが」
いまいましげに鴻上を見据えながら自分の投げたジャケットを拾い上げる。
「ははは。あそこ(学会)には見る目を持った人間が居なかった。私のような天才は、今の時代にはそぐわなかったというだけですよ。
まぁ確かに……貴方の作ったシステムは見事の一語に尽きる。金が金を生むんだ、そこには人も材料も商売さえ存在しない。時代が時代なら貴方は世界にも出て行けただろうに」
腰を屈めて上目遣いに瀬戸を見ていた鴻上は、手でゴマを擦るジェスチャーをしてみせる。
「フンッ。何を今更! そんな見え透いたおべんちゃらを言っても財布の紐は弛まないぜ? 10で我慢するんだな」
鴻上はヤレヤレといった風に両手を拡げると、深い溜め息をつきながら瀬戸を窺い見る。
「10は困りますよ。最初の段階から幾ら余計に掛かったか、瀬戸さんだってご存知の筈でしょう? 10は無いですよ10は!」
その言葉に瀬戸は少し考える振りをしていたが、早く鴻上との話を切り上げたくて不承不承要求に応じた。
「ああ解った解った。では12だ。それ以上を望むならこの話は無かったことにする」
愛想笑いを浮かべながら鴻上は瀬戸に擦り寄った。
「さすがは瀬戸さんだ、話が早い。では12億で手を打ちましょう。もう少し色を着けて頂きたかったのが本音ですが、瀬戸さんには敵わないなぁ。……では使用法をご説明致します」
そう言って彼は小型プロジェクターのような箱を指し示した。
ニャァオ
いつの間に連れてきたのか、鴻上の懐から子猫が顔を出す。
「最初の頃は犠牲が多かったんです。データとしてコンピューターの中に取り入れられても、再構築の段階でただの肉塊になってしまったり、光の砂になってしまったり……」
パソコンを起動させ、その合間を見ながら口を挟む鴻上を横目で見て、さも機嫌悪そうに瀬戸は言う。
「俺は苦労話を聞きたくてお前の技術を買ったんじゃない。余計な事はいいから話を先に進めろ!」
「はいはい。でもこれが重要なんです」
鴻上がアイコンをクリックすると、ソフトウェアのダウンロード時に見られるような、文字達が目まぐるしくその表情を変える画面が現れた。
「な、なんだこれは!」