ネットワークライダー『ザイン』
「それにしてもいいスタイリングじゃないか。気に入ったよ」
バイクの画像をクルクルと動かしたりズームアップしたりして、瀬戸は画面に見入っていた。
「気に入って頂けたならなによりです。ネット内は空気抵抗など有りませんし、操作性が良ければ実際形はどうでも良かったんですが……カッコイイに超した事は無いですからね」
彼はそう言いながらもそわそわと落ち着かない。その様子を目敏く見取った瀬戸は、追い立てるように言う。
「用事が有るならさっさと帰ったらどうだ? 後は説明書を読むから」
「そうですか? それでは失礼します。また使えそうな研究が出来たらお知らせしますよ」
ああ解った、良い旅を。そう言って瀬戸はプロジェクターの前に立った鴻上に手を振り、アイコンをクリックした。
シュィィイン……フッ
「残念ながら永遠の旅になるがな! ハッハハハハ」
その顔に狂気に満ちた笑顔を浮かべ、瀬戸はパソコンを弄り始めた。この機に乗じて鴻上を亡き者にするつもりなのだ。
命の再生を止める方法を知らなかった彼はパソコンをログオフしようとするが、シフトロックされているのか、カーソルが動かない。
「なに? 畜生、鴻上め! 予測済みだったというのか?」
鴻上の嘲笑う顔とその耳障りな声が脳裏をよぎり、瀬戸の額にはじっとりと汗が浮いている。
「こうなったら強制終了だ!」
しかし、電源を切っても画面は点灯したままだった。
猫は情報量としては多くないので十数秒で転送出来ますが、人間だと1・2分は掛かります。……そう言った鴻上の言葉を思い出し、瀬戸は更に焦った。
「時間が無い! 何とかしなければ」
そしてふと電源コードに気付いてそれを抜くが、またしても何ら変化が無い。
「あの野郎、だからノートパソコンを使わせたのか……ん? ああ、こうすればいいんだ」
瀬戸は何を思ったのかそれを持って部屋の隅まで行くと呟く。
「バイバイ、鴻上博士」
ジャボン ブクブク……
アロワナの水槽に放り込まれたノートパソコンは、静かに水槽の底へと沈んでいった。
「ソフトウェアとして存在しているんだから、殺人ではないよな。
しかし払うと言った物を払わないのだから詐欺にはなるか、ゥワハハハハ。
……邪魔なモン入れちまって悪いな。ほら、お前の大好きならんちゅうをやるから機嫌直せ。ゥワハ ゥワハハハハハハ」
瀬戸はアロワナに餌をやりながら、独り大声で笑い続けていた。