ネットワークライダー『ザイン』

「最近このURL、良く見るようになったな」


 都内の或るネットカフェチェーン店の薄暗い一室で、如何にもむさ苦しい男が二人寄り添い、モニターの明かりに照らし出されていた。


「WWWW.な。ワールド·ウェイク·なんちゃらだ。フォーダブリューとか略されてるけど」


 長髪の男に答えた彼は几帳面に眼鏡を拭き始めた。漫画に描かれた狐の様に細く吊った目を精一杯広げて、レンズをライトに透かしたりしている。


「さすが詳しいな。『ネトゲの申し子』と言われて久しいお前だけの事はあるぜ」


 眼鏡を拭く手を止めた狐目の男は、長髪の男に食って掛かる。


「おいよせよ! 人に聞かれたらオタクだと思われちまうじゃないか!

 それはさぁ、あくまで裏の顔という事で……」


 現在、世間に於けるURLのほぼ半数までも占めるようになった4Wは、登録するだけで関係各所に自動リンクが張られ、大手掲示板への宣伝活動も活発な上、検索機能も充実している事など様々な理由から、破竹の勢いでユーザーを獲得している新進サーバーネットワークである。


「俺のネトゲサイトも半端ねぇヒット数になったよ。アフィリエイト収入だけでも月に5・6万は稼げてるから」


「へぇ~、そりゃすげぇ。俺もギターマニアのサイトでも立ち上げようかなぁ」


「地味そうなサイトだな。天下の4Wでも余りヒット数は望めないんじゃないか? ははは」


「ちぇっ、ひでぇなぁ」



───────とある廃教会の内部



 外からの光がステンドグラスを通じて様々な色を床に落としている。祭壇中央、そこに当然有るべき偶像は取り払われていて、その壁には豪奢な縁取りがされた半球状の巨大な水晶が嵌め込まれている。

 水晶は俄に、まるで脈動するかのように明滅を始めた。するとソフトだが、気持ちケンの有る女性的な声が教会中にこだまする。


「イゾルデ! イゾルデよ!」


 光を放ち続けるようになった水晶に浮かぶ顔が、どうやら声の主らしい。

 ゆらゆらとピントの定まらないその映像は極彩色に彩られ、えもいわれぬ微笑を湛えた表情は寧ろ背筋に寒い物を走らせる。


「はい。お呼びになりましたか、マルケ総帥」


 イゾルデと呼ばれた女性は、昆虫とも甲殻類ともつかない意匠の甲冑をまとっているが、その水着のような小ささはとても実戦向きとは思えない。


「フフフ。

 とうとう。

 僕らのネットワークが、世界のほぼ半分を席巻しました。

 そろそろ。

 アレを使ってみようかと思うのだけれど」


 マルケと呼ばれた水晶の中の人物は、含み笑いをしながらイゾルデに視線を送る。


「お言葉を返すようで心苦しいのですがマルケ総帥、アレはまだ完成を見ておりません」


 ぬらぬらと光る、甲冑とお揃いの海老茶色をした兜を脱ぐと、髪を掻き上げながらイゾルデは言った。



< 9 / 22 >

この作品をシェア

pagetop