からんころん
実果子は他の女子に押しとばされた。
「やだ、あの人濡れてたー!触っちゃったよ、気持ち悪い!」
「消毒した方がいいよ!」
ーー私はバイ菌か。
「気にしない気にしない大丈夫大丈夫…」
実果子は呪文のように唱えていた。
けどさすがに今日はクタクタだった…。
バス停までとぼとぼ歩いてると、見覚えのある真っ黒な車が通り過ぎた。
車は塾の前で止まった。
ーーやっぱりお兄さんだ。
晴紀は車から降りてキョロキョロしている。
千夏を探しているようだった。
「お兄さーん」
「あ、実果子ちゃん」
「千夏ちゃん、もう帰りましたよ」
「え!?なんだよー、迎えに来てって言うから仕事も途中で切り上げてきたのに…。ひとりで帰ったの?」
「いえ、なんかお友達に食事誘われてました」
「あったまくんなー。…実果子ちゃんは一緒じゃなかったんだ?」
「私は……」
晴紀は今、実果子の元気のない様子に気づいた。
そして泣いたあとだということも…
「…実果子ちゃん?」