からんころん
しばらくして、ゆっくり戸が開いた。
足音が実果子の方へ近づく…
「はい」
実果子がそっと顔を上げると、そこに千夏がいた。
投げ捨てられた実果子の財布を拾い、差し出している。
「…ありがとう」
「なんであんなこと言ったの?」
「え…」
「本当は盗ってないんでしょ、財布。実果子ちゃんはそういうことする人じゃないと思う」
千夏にそう言われ、実果子は千夏が犯人なんじゃないかと疑った自分の方が間違ってるんじゃないかと、恥ずかしくなった。
「ねぇ、一緒に帰ろう?」
にこにこしながら千夏はそう言って、実果子の手をとった。
「…うん」
実果子はこの状況が信じられなかった。
ずっと憧れていた女の子が自分を信じ、話しかけてくれた…
それがただ嬉しくて
さっきまで凍えそうだった実果子の心が
一気に温まった。
それからというもの、実果子は教室中、塾中から冷たい視線を浴びせられることとなる。