【短編】こんな恋もありでしょ。
その結果、
「タコみたいになってますけどーぉ」
そう。
頬に触れられた手は、あたしの抵抗によって顎下に回り。
下から頬をすくうように……いや、挟むようにっていうのが正しいかもしれない。
指で頬を挟まれ、あたしはタコのような口になってしまっている。
最悪だ。
泣いてる上に、こんな顔とか!
こんな逃げられない状況で、あたしは眉間に皺を寄せて怒ることしか出来なくて。
なのに那央は、なぜか凄く優しい表情であたしを見下ろしたまま、
そっと触れるだけのキスをした。
ズズズ……ドンッ!!!
あまりの驚きにその場に尻餅をついてしまった。
なななななななな、なにが起きたの!?
「葵、大丈夫か?」
那央がしゃがんで、あたしの顔を見てる。
「え? な、なに?」
「だから大丈夫?」
「じゃ、じゃなくて……今のなに?」
「ああ、キスした」
「な、な、なんで?」
「キスしたくなったから」
涙なんてどこへ行った!? 状態。
もう頭の中は大パニック。
マヌケな格好で、たぶん顔は、いや体中真っ赤なあたしは、さっぱり訳がわからない。