【短編】こんな恋もありでしょ。
目覚めたとき、そう思ったことをなかったことにしてくれって、心底思った。
隣に寝ていたはずの葵の姿はどこにもなくて。
置手紙すらない。
携帯もでない。
メールも返ってこない。
どーなってんだよ。
ドッキリ?
本当にテレビか何かなの!? って笑えない冗談が浮かんでくるくらいに。
タクシーに乗り込み、葵の家の住所を伝えて、もう一度電話をかけた。
あいつ絶対逃げるつもりだ。
ここまで来て逃がすわけねーだろ。
お約束の機械音を聞きながら、そう思ったとき、
「はぁ、やっと出たか」
そう言って、大きく息を吐いた。
なのに、向こうからは何も聞こえてこない。