ハナ*ハナ
そして今 彼女は
愛しい男が
ほかの女と幸せになるための道を
つくりはじめている。


泣きもせず
わめきもしない。


こんなにも細く
こんなにも弱く見える
彼女のどこに
こんな強さがあるのだろうかと
彼女を見ながら、考えてしまう。


(女とは、みんなこんなに強いのだろうか)


そんな俺の視線に気づいたのか
不意に彼女がこちらを向く。


視線を、とらえて・・・。


「・・・何も、言わないんですね」


「えっ」





流れた・・・すこしの沈黙のあと


「ねぇ、煉さん。
 すこし、寄り道をしていきましょうか」


いたずらっぽく笑って、彼女が言った。



「えっでも、
 呉服屋さんは大丈夫なんですか?」


「すこしですから、大丈夫ですよ。
 あっでも煉さん、
 このあと用事がありましたか?
 草履屋さん、いそいでいます?」


「いや、僕はぜんぜん」


もともと草履屋にだって
行く予定などなかったのだから
このあとの予定だって
ないに決まっている。

いまはただ、
彼女が・・・心配なだけだ。


「じゃあ、決まりですね!
 あの角を曲がったところに
 私のお気に入りの場所があるんです」


「へぇ、そうだったんだ。
 それは楽しみだな。」


そうして歩く道は、彼女と歩く
はじめての道だった。
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