ハナ*ハナ
ここだけが他の場所とは違い
ひとあし先に盛夏を迎えたがごとく
木々は深い深い緑色に輝き
うるさいくらいに
セミの鳴き声がきこえた。


その場所に足を踏み入れた途端
夏独特の
青く濃い茂った草の匂いが
鼻をツン、とさす。



( なつかしい、匂いだ・・・ )



この町にくる
もっとずっと
ずっと前

山のふもとで
リュウとこんな
みどり一面の村に
住んでいたことを思い出す。




( あのころは父も母も、一緒だったな )


いまを不幸だなんて
思ったことはないけれど
それでも家族がそろっていたあの頃は
今ではずっと特別に感じる。


むかしを思い出しながら
胸いっぱいに
その匂いを吸い込んでた俺に
彼女は言った。


「この場所を教えたのは、
 煉さんがはじめてなんですよ」


「えっ?」


「俺が、はじめて? 
 だって・・・晴信くんは?」


2歩・・・3歩と
歩いた先。

1本の
ほかよりもずいぶん大きな木に
彼女はもたれかかった。



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