ハナ*ハナ
「・・・ありがとうございます」


突然、彼女が言った。


「煉さんには感謝しているんです」


「えっ・・・感謝?」


なんのことか、
まったくわからずにいる俺に
彼女は続けた。




「本当はずっとだれかに
 聞いてほしかったのだと思います。
 でも、だれにも言えなくて・・・。」


「晴信の婚約は
 昨日、今日
 決まったことではないんです。
 だからずっと、覚悟はしてました」


「でも・・・本当は
 信じたくなかったんです。
 言葉にしてしまえば
 『婚約』のこと
 本当なんだって
 認めざるをえないから・・・。

 現実だって思いたくなくて・・・
 だから、私の口からはずっと・・・
 言えなかったんです」


彼女は苦しそうに
言葉を吐いた。


「・・・煉さん、ありがとうございます。
 私の気持ちに
 気づいてくれて・・・。
 私の気持ちに
 知らないフリをしてくれていたことも。
 ・・・私、もう、大丈夫ですから!」





そこまで一気に言った彼女は


( ふー )


と大きな息をひとつ吐いて
いつもと変わらない笑顔で言った。



「もう、行きましょうか」


「・・・・・ああ」



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