ハナ*ハナ
「おゆき!」


俺たちをみつけて
声をかけてきた人物がいた。


そばには、鴇羽色《ときはいろ》の
着物を身にまとった女性が立っている。



そのふたりを見た瞬間に
おゆきさんの表情が
一瞬、こわばったことに俺は気づいた。


・・・けれど
その表情に気づいたのは多分
となりにいた
俺だけだっただろう。


その人物が側にきたときには
もう、いつものおゆきさんに
もどっていたから。


いま
彼女の表情を曇らせる人物など
ひとりしかいない。




「晴信・・・さん」


目の前を歩いてきた人物は
ゆきさんがこの世で
だれよりも慕っている相手・・・。


彼女が
こどもの頃から思いを寄せ
そしていま
その想いを断ち切ろうとしている人物
晴信くん・・・だった。
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