ハナ*ハナ
お市さんは
クスクス笑っていたが
晴信くんは
やはり長い間の兄代わりだけあって
複雑そうな表情をして
苦笑いをした。


それはそうだろう。

急にこの町にやってきて
いつまでいるかわからない風来坊に
自分のかわいい妹を
(実際は ただの幼なじみだが)
やれるかっていう心境なのだ。



おゆきさんの表情が
ちょうど俺からは見えず
そのことが少し不安になったが
その後はなにもなかったように
4人で問屋街をあるきはじめた。





話をきいてわかったのだが
晴信くんとお市さんの婚約は
家同士の政略結婚では
ないらしかった。


数年まえに
ぐうぜん出会ったふたりが
互いを
『添い遂げたい相手』
だとわかるまでに
そう時間はかからなかったらしい。


晴信くんはすぐにお市さんに求婚をした。


しかし小さな古物商を営んでいた
お市さんの家では
特に裕福なわけでもない
自分より目下の晴信くんの家を
お市さんの祖父が
認めなかったそうなのだ。




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