ハナ*ハナ
おゆきさんが言っていた。


『晴信の婚約は前から決まっていた』と。




『婚約』まではなかなか
たどつかないふたりだったが
このふたりの気持ちが
決して揺らぐことがないことを
彼女はそばで見て
感じ取っていたのだろう。


彼を愛する・・・彼女ゆえに・・・。




「あ、晴信さん・・・」


彼のえりもとに落ちてきた
黄色い花びらを
お市さんが
そっと取ってあげた。


「ありがとう・・・」


晴信くんは愛おし気に彼女をみた。



ふたりの間に流れる
このうえない幸せな空気に

『おめでとう』と

素直に言いたい自分と
言えない自分がいることに
俺は気づいた。


お市さんのはらった
黄色い花びらが
なぜか俺には
おゆきさんの心に見えて
仕方がない。


もちろんお市さんが
彼女の想いに気づいていることは
ないだろう。


それくらい
ふたりの前での おゆきさんは
晴信くんの『妹役』に徹していた。



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