ハナ*ハナ
「それじゃあ、ぼくはここで」


『柔』のまえまで来たとき
俺は言った。


俺がおゆきさんに
『見に行く』と言っていた
草履屋の前。



「じゃあ煉さん、また・・・
 今日はありがとうございました」


おゆきさんが俺に言った。


正直、俺は
この3人だけにするのは
気が進まなかったが
これ以上は
どうもできないことも知っていた。


「それじゃあ煉さん 
 また近いうちに1度呑みましょう。」


「ええ、そうですね。
 それじゃあ、また」




晴信くんとお市さんが
すこし離れたことを見届けてから
彼女の耳元で俺は言った。


「それじゃあ、おゆきさん
 もし・・・なにかあったら・・・」



 ( いつでも俺を呼んでほしい )


そう言いかけたが、声にならなかった。


彼女もそれがわかったのだろう。

にっこり笑って手を振りながら
ふたりの待つほうへと、駆けていった。
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