ハナ*ハナ
『あの子は、やめておけ』


彼女の後ろ姿と
リュウから言われた言葉が
交互にあたまの中を駆けめぐった。



--------だけど--------



(いくら俺が惚れっぽくたって、
 好いた相手のいるおなごを
 わざわざ好きになったりはしないさ)


「ばかリュウめ!」


俺は勝ち誇ったように
独り言をつぶやいた。


すきになることなどないさ。
今までだってそうだったんだから。
これからだって、きっと。



「おまえは心配しすぎなんだよっ!」



さっきまで
リュウの座っていた座布団を
俺は いきおいよく蹴り上げた。


リュウからの返事はもちろんなく
夕闇に帰っていく
カラスの鳴き声だけが
赤い空に
とおく とおく響いていた。

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