ハナ*ハナ
涙をかくそうと
顔を手で覆った彼女の袖が
涙で濡れているのが見てとれた。


そんな不器用な彼女を
心から愛おしく感じた俺は
何も考えずに
彼女を強く抱きしめていた。


彼女は、なにも言わなかった。

俺も、なにも言わなかった。


ただ時間だけが刻々と流れ
聞こえてくるのは
ふくろうの声と
彼女のすすり泣く声だけだった。


しばらくのち
涙の枯れた彼女が
はっとしたように
俺の腕からすり抜けていく。


泣いて泣いて
泣きはらした顔を
俺に見られることに抵抗があったのだろう。


彼女はクルっと俺に背を向けた。


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