ハナ*ハナ
その村にはそれまで
母によって願いを叶えてもらった人も
いたはずなのに

誰も助けてくれずに
母は見殺しにされた。


俺はあのときほど
《 人間 》を呪ったこともない。


俺とリュウは
どしゃぶりの雨のなか
村人の目をぬすみ
逃げて、逃げて・・・・・。



それなのに
何年かたったのち
リュウは俺に言った。


自分も母親のように
『みんなを幸せにしたい』、と。



俺にはリュウが
なぜそんなふうに言うのかが
まるで理解できなかった。


その力のために殺されたのに
なぜ母親と同じような道を歩きたがるのか。



『自分も同じように
 殺される日が来るかもしれない』



そんな不安が
ないわけではないはずなのに
それでもリュウは
その仕事をやり始めた。


ひとつだけ
強い強い信念をもって。


それは俺たちの母親と同じ信念だった。



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