ハナ*ハナ
ここまでくるには
長い長いみちのりがあった。


時には彼女をあきらめて
俺よりもっと
地位も、名もある人のもとへと
嫁いだほうがよいのではないかと
悩み、苦しんだ時もあった。


そんないろいろな想いを乗り越えて
おれは今日
愛しい人を、妻とする。



「さかずき盃を」



三々九度の盃に注がれた
その酒に
口をつけようとしたその、ほんの一瞬。

俺は何か言いようのない
あたたかな光に包まれた気がした。



『 ずっと、しあわせに・・・』


あたまのなかへと、声が聞こえる。


どこかで聞いた、その声。

やさしく響く、なつかしい声。

ヒバリのように
高く、澄んだその声は
子供の頃からずっと一緒に過ごしてきた
かわいい妹の声だった。


となりには、愛しい人。

その人と
俺はこれからの人生を共に生きてゆく。


三々九度の盃に口をつけ
それをそっと彼女に渡す。



『 しあわせに・・・ 』


おれは心のなかでそう祈った。

きみが俺の幸せを祈ってくれたように
俺も祈るよ。


本当の妹のように
いつも俺を慕ってくれた。
小さな、あの頃のきみを思い出す。


『おゆき・・・・・
 どうかきみが、
 だれよりも幸せであるように・・・ 』



             終


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