文学乙女
「あたし、いろんなことに遭いまくりですよ」





あたしは椅子にもたれながら呟く。





「この先、もう出会いもなんにもないだろうなあって思ったんですけど…今日はいろんな意味で、正直びっくりしました」





あたしと三枝さんは、下の椅子に座りながら、静かに涼んでいるとこである。





「疲れました?」





三枝さんが聞いてきた。





「いえ…平気です。疲れてないけど…人生の中で一番すごい出来事だったなって」





三枝さんは柔和に笑いながらうなずく。





「そういえばあたし、三枝さんにお礼してませんでした……」





「お礼?」





「今日のこともそうだし、この前いろいろお世話になったから…」





「ああ、あの雨の日の…。いいですよ、気を使わなくて」





「でも…」





「気にしないでいいから…。で、ひとつ越野さんにお願いがあって」





「?…はい」





なんだろう、お願いって……。





あたしは首をかしげる。





「この前くれた、あのクッキー…また、作ってくれますか?」





三枝さんのお願いに、あたしは一瞬キョトンとした。





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