文学乙女
その人に出会ったのは、ゴールデンウィークを過ぎた5月中旬頃。





あたしは本の束を両手に抱えて、カウンターへ向かっていた。





途中で大きいリュックサックを背負った太めのオジサンにぶつかって、大胆に転倒。





おまけに両手に抱えていた本を、人前でぶちまけてしまうハメに…。





その光景をたまたま見ていた彼が、転んだあたしを抱き起こし、ぶちまけた本を一緒に拾ってくれた。





その上、貸出カウンターまで本を運んでくれたのである。





その後、何事もなかったかのように。





「気を付けて下さいね」





と、柔和な笑みで言って去っていったのだ。





あたしは時が止まったようにポカンとしていた。





後々になってから、当時の出来事を思い出す。





同時に彼への淡い恋心が少しづつ芽生えた。






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