彼×彼女の恋事情
そして思わず、男……? と、口に出してしまいそうになった。
さすがに失礼なので、慌ててその言葉を飲み込む。

棚の向こうから出てきた彼は、男というには少しひ弱そうに見えた。
背も、普通の男子と比べて低く(といっても私よりは十センチは高いのだろうけど)、声も若干高め。

何か全体的に弱そー……と、またしても出かかった言葉を飲み込み、彼をじっくり観察させてもらった。

よく見てみると、彼はなかなかいい顔立ちをしていた。
私が今まで付き合ってきた男たちの、イケてる男ランキングベスト3までに入るのは確実ね。

そうして勝手につけているランキングに、勝手に入れさせてもらった。

彼は、目は二重でパッチリしていて、唇は薄くでもぷっくりしてて。
髪はさらさらできれいな黒髪。

ん――、かっこいいというよりはかわいい系?

無言で見つめている私に、彼は怯えながらあのーと話しかけてきた。
私はたまたま唇を見ていたので動きで気づいたが、他の場所を見ていたら絶対気づかないようなか細い声だった。

……怯えてるのかな。私、怖いの?

そう疑問に思ったけど、一応話しかけられたので返事をする。

「なに?」

優しく問いかけたつもりだったのだが、それでも彼はびくっと肩を振るわせた。

し……失敬な!!

内心そう思ったし、口に出して言ってやろうかとも思ったのだけど、やめた。
彼はただ問いかけただけで肩を震わせたのだ。きっとさっきの言葉を口に出したら逃げ出しでもしてしまいそうだ。

そんなわけにはいかなかった。せっかくのチャンス、そんなことでふいにはしたくない。

「まあまあ。立ち話もなんだもんでィ。どぞどぞこちらへ」

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