彼×彼女の恋事情
「ご…ごめん。もう一回言ってもらってもいい?」

彼はまた肩を震わせるのだろうかと内心びくびくしてしまったけど、今回はそれはなかった。

さっきよりも大きめの声で、もう一度彼は名前を告げる。
今度ははっきり聞こえた。

「…………雲平蘭次郎」

…………はい? え、今何て。
ランジロー、蘭次郎って言った今!?

「ランジロー君?」

あまり自分の耳に自信がもてなくて、聞き返してみた。

「うんっ!!」

なぜか彼は嬉しそうににっこりと頷く。

嘘でしょ……信じらんない。
ランジロー君って……今時、そんな名前アリ!?
何かもっとこう……彼に合ったいい名前なかったの彼の両親よ!!

ああ、何かもう。ここで戸惑っても埒があかない。
そう思った私はとにかく名前は考えないようにして話を進めることにした。

「えっと、ランジロー君はさっきのおじいさんと知り合い?」

……ああ、哀しいかな現実。
そうだよ、彼を呼ぶときはいやでもそう呼ばなくちゃいけないんだった。
考えないようにとか、到底無理じゃんか。

「ううん、違うよ。歩いてたら見慣れないお店があったから入ってみただけ。そしたらあのおじいさんが話しかけてきて。彼女を作らんかって言ってきてさ。答えに迷ってたらおじいさんにちょっと待ってろって言われて……」

何か、私とほとんど同じだなぁ。
私より一足先にかr……ランジロー君が来てたんだ。

「それで、今この場に至る?」

「うん。そうなんだ。会えたのが香奈ちゃんみたいな子でよかった」

ランジロー君はまたにっこり笑った。

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