氷の女王に愛の手を
直接褒められたわけじゃないし、いつもダメ出しばかりの鬼コーチだけど、俺の演技を気に入ってくれているんだ。
それだけで十分。
薄く固い壁が、なんとなく崩れた気がした。
これで終わり。と、俺の背中を二・三回叩いて立ち上がると、美優は両手を伸ばして背伸びする。
これで明日は大丈夫だねって、自分だって試合を控えているくせに、なにをやっているんだがこの自称天才マッサージ師は。
「マッサージ師さん。お代はいくらになりますか?」
上半身を起こしてベットで胡坐をかく。
美優はクルリとこちらに向き直り、腕を組んでうーんと唸りながら考えると、右手の人差し指を俺に向けた。
「アメリカ大会のメダル! できれば金で!」
「そりゃあべらぼうに高い料金なこった」
ニシシと笑って部屋を出る。