氷の女王に愛の手を
「回転が足りていないですね」
ふと背後から声がする。
驚いて振り向くと、そこにいたのは初老の男性。
まったく、おどかさないでくださいよ。
「いきなり話しかけるからビックリしたじゃないですか」
佐藤先生。俺のコーチで、美優も昨シーズンまで先生に指導してもらっていた。
ほんわかした口調でとても柔らかくほほ笑む人だけど、いざスケートとのこととなると豹変する実はちょっと恐い人。
だけど佐藤先生の基礎を重視した指導はとても定評があり、数多くの有名選手を育ててきたことで有名だ。
もちろん美優もその中の一人。
「練習は午後からのはずでしたけど、自主練習ですか?」
この優しい口調が、練習になると怒号に変わるのだから恐ろしい。
見た目で判断してはいけないと言うけれど、まさにその通りだ。うん。