氷の女王に愛の手を

「美優に付き合わされてるんですよ。コーチがアメリカに帰っちゃったから、俺にコーチしてくれって。笑っちゃいますよね」


乾いた笑いでウケを狙ったはずなのに、コーチから返された言葉は、


「それは賢明な判断ですね」


俺よりもナイスなギャグだった。


「タク君は教え上手ですから。私よりも上手いと思いますよ」


「教え上手って、後輩のですよ?」


先生はスケートクラブを経営していて、俺もそこに所属していた。


だけど先生は俺以外にも選手の指導をしていて多忙だから、代わりに俺が足を運んで後輩の指導をたまにしているのだ。


けど、あいつらには悪いけど、美優と後輩達とではレベルが違いすぎる。俺が教えることなんてなにもない。


なのにコーチは「後輩もミューちゃんも同じですよ」なんてあっけらかんと言い放った。


本当にこの人は、なにを企んでいるのか分かりゃしねえ。


「幼馴染であるタク君しか指摘できないこともあると思いますよ?」
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