氷の女王に愛の手を

そこにいたのは本田コーチ。


もの言いたそうな表情を浮かべる彼に、断片的な記憶が蘇る。


確か四回転に挑戦して、転倒して、そのまま気を失って……。


「とんだ災難だな」


丸椅子に座りながらコーチが言う。


「転倒の原因はリンクに落ちていた花びらを踏んだことによってバランスを崩し壁に激突。頭部に五針を縫う大けがだ」


心の内を読み取るかのように、聞きたいことを先に述べられた。


あの時、ブレイアン選手の得点が気になってリンクを良く見ていなかったのが凶とでたらしい。


花弁による突発的な転倒による対処の遅れ。


おまけに最後の最後まで二回転半にするか四回転にするか迷っていたから、壁との距離感を見失っていたのも原因だろう。


コーチは深く大きなため息をつく。

< 146 / 231 >

この作品をシェア

pagetop