氷の女王に愛の手を
作戦無視。試合の途中棄権。怪我。
説教される理由は嫌というほど思い当たる。
「すみません、指示を無視して」
沈黙。
俺はコーチの目を見ることができなくて俯く。
すると、絞り出すような声でコーチが「実は」と口火を切った。
「俺の怪我の原因は四回転なんだ」
……は?
突然のことに戸惑うが、かまわずコーチは続ける。
「アメリカに移住して己のレベルの低さを思い知ったよ。それこそ四回転が当たり前のような世界だったからな。国内大会の予選落ちなんて何度あったことか」
懐かしむような口調で、淡々と語る。
現在日本のフィギュアのレベルはトップクラスにまで上がっているが、旧採点法式の時代は低迷していた。