氷の女王に愛の手を

日本とアメリカのレベルの差は、それこそ天と地ほどあっただろう。


「必死で四回転を習得して、国内大会の本戦まで勝ち進んで、やっと優勝して、アメリカ代表として世界選手権に出場できると思った矢先だったよ」


身体が悲鳴をあげたのは。


右足を擦りながら言うコーチ。


その眼はどこか遠くを見つめている。


自嘲気味に口角を釣り上げているが、無理に笑顔を作っていることがバレバレだ。


無謀な練習をし続けた結果、引退せざる得ない大怪我をしてしまった。


他人事じゃないようで、鳥肌が立つ。


どんどん結果を残し世界へ飛び立つ美優に追いつきたくて、無茶な練習をしていた自分を思い出す。


コーチも俺とおなじ心境だったのだろうか?


追いつきたくて追い越したくて、多少の無理を承知で身体を酷使して、結果という証が欲しくて、もがいていたんだろうか?

< 148 / 231 >

この作品をシェア

pagetop