氷の女王に愛の手を
3A
後ろにコーチ、前には美優。
なんとも心臓に悪い二人を置いて、俺の指導が始まった。
「とりあえず、トリプルアクセル跳んでみてくれる?」
「了解です! コーチ!」
この状況を楽しんでいるのか、美優もコーチも口元が緩みっぱなしでなんかイラつく。
ふざけて「コーチ」なんて大声で言うもんだから、周りから冷たい視線がグサグサ刺さるし、一刻もこの場から逃げ出したい。
「……分かったから、早く滑って」
さっさと練習を切り上げよう。
作戦をBプランに変更して、さっさと美優に3Aを跳ぶよう促した。
緩みっぱなしの表情から一転、スケーターの表情に変わる美優。
周りの状況を確認し、人がいないスペースを見つけて助走に入る。
後ろ向きで滑り、右足で滑りながら前を向く。
そして、左足前向きで踏み切り!