氷の女王に愛の手を

その後演技を再開して、見事にまとめ上げて優勝したのだけれど……。


あの時感じた恐怖心が、まだ拭い去れていないのかも知れない。


だから踏切の際、踏んばることができずに回転が足りないまま降りてしまうので転倒してしまうのだ。


跳んで降りれる力量は十分ある。


だけど精神面のこととなると、かなり難しい。


美優のコーチだってこの事には気づいていたはずだ。


それでも美優の恐怖心を拭うことは出来なかった。


「タクちゃん?」


「え? あ、ごめん。なに?」


「ア・ド・バ・イ・ス」


考え込んでいる隙に近づいてきたかと思ったら、俺のオデコに人差し指を突き付けながら、無茶な要求をせがむ美優。


アドバイスって、俺トリプルアクセルは苦手なんですけど……。
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