氷の女王に愛の手を
「靴なんか持ってどうしたんだよ?」
欠伸が一つ。ついさっき起きたばかりの俺は、寝ぼけ眼で美優を見つめる。
「コーチして欲しいの」
「コーチ?」
「うん、スケートのコーチ。コーチング」
……彼女はなにをふざけているんだ?
「悪いけどパス」
身を翻して家の中に戻ろうとすると、俺の腕をガッチリと掴んで逃がさまいと抵抗をし始めた。
振りほどこうとするが、これがなかなか離れない。
160弱の身長しかないのに、どこからこれほどの力を引き出しているのだか。
無理に解こうと思えば解けるが、さすがにそれは気が引ける。
気づかれないように小さくため息をついて、俺は美優に向き直った。