氷の女王に愛の手を

「え……?」


なにげなく、まるで空気のような重みのない言葉を理解するのに、かなりの時間を費やした。


コーチ生活の引退?


つまりそれは、


「タク君もミューさんみたいに、新しいコーチを探さなければならないですね」


先生から指導を乞うことは、もうないということ。


窓から覗く青空に、暗雲が立ち込める。


さっきまでムカつくほどの蒼だったのに、今じゃ灰色に侵食され始めている。


時期に雨が降るだろう。大雨が。


「お医者様に言われましたよ。もう歳なんだから無理はするな。海外遠征はもちろん、国内遠征も体に負担がかかるから禁止だ。ですって」


「で、でも、遠征に行けなくても―――」


「タク君」
< 43 / 231 >

この作品をシェア

pagetop