氷の女王に愛の手を
「え……?」
なにげなく、まるで空気のような重みのない言葉を理解するのに、かなりの時間を費やした。
コーチ生活の引退?
つまりそれは、
「タク君もミューさんみたいに、新しいコーチを探さなければならないですね」
先生から指導を乞うことは、もうないということ。
窓から覗く青空に、暗雲が立ち込める。
さっきまでムカつくほどの蒼だったのに、今じゃ灰色に侵食され始めている。
時期に雨が降るだろう。大雨が。
「お医者様に言われましたよ。もう歳なんだから無理はするな。海外遠征はもちろん、国内遠征も体に負担がかかるから禁止だ。ですって」
「で、でも、遠征に行けなくても―――」
「タク君」